大判例

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大阪地方裁判所 昭和47年(わ)405号 判決

本籍

八尾市久宝寺一丁目一二七番地

住居

同市神武町一番七七号

会社役員

美濃正雄

大正一二年一二月三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官高橋哲夫出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年および罰金四、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、八尾市神武町一番七七号において美濃製作所の商号で紡績機械部品の製造業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和四三年分の所得金額が七八、六七二、四五七円でこれに対する所得税額が四九、四六三、三〇〇円であるのに、公表経理上売上の一部を除外し架空の仕入などを計上しかつ期末たな卸原材料などの一部を除外するなどの行為により、右所得金額中六六、七五九、四四六円を秘匿したうえ、昭和四四年三月一四日八尾市本町所在八尾税務署において、同税務署長に対し昭和四三年分の所得金額が一一、九一三、〇一一円でこれに対する所得税額が四、八五七、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税四四、六〇五、九〇〇円を免れた。

第二  昭和四四年分の所得金額が一〇六、八三四、二五四円でこれに対する所得税額が七〇、二一九、八〇〇円であるのに、前同様の行為により右所得金額中九一、〇五八、五一九円を秘匿したうえ、昭和四五年三月一四日前記八尾税務署において、同税務署長に対し昭和四四年分の所得金額が一五、七七五、七三五円でこれに対する所得税額が六、八四六、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税六三、三七三、三〇〇円を免れた。

第三  昭和四五年分の所得金額が一一二、三一四、二五〇円でこれに対する所得税額が七二、四一五、九〇〇円であるのに、前同様の行為により右所得金額中八二、四二〇、三〇五円を秘匿したうえ、昭和四六年三月一三日前記八尾税務署において、同税務署長に対し、昭和四五年分の所得金額が二九、八九三、九四五円でこれに対する所得税額が一四、七八三、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税五七、六三二、三〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の当公判廷における供述ならびに第二回、第九回、第一〇回各公判調書中の被告人の供述部分

一、被告人の検察官に対する供述調書七通

一、被告人の収税官吏に対する昭和四六年七月二九日付、同年八月二日付、同年九月二日付各質問てん末書

一、被告人作成の確認書

一、美濃絹枝の収税官吏に対する質問てん末書四通(但し、昭和四六年四月二六日付質問てん末書問一、同三に関する部分、同年八月一〇日付質問てん末書問一、に関する部分を各除く)

一、白井敏夫(二通)、川本英雄、佐藤清二(二通)、内田寿太郎、美濃敏子、西田悦子の収税官吏に対する各質問てん末書

一、別所守の検察官に対する供述調書抄本

一、同人の収税官吏に対する昭和四六年七月九日付質問てん末書抄本

一、川本英雄、内田寿太郎、永田茂子、西田悦子(謄本)、美濃信造、白井敏夫、伊部艮男、渡辺弥太郎、小池由平、小野寺春子の検察官に対する各供述調書

一、小畑順一、内田寿太郎各作成の各供述書

一、平松二郎外二名作成の供述書(末尾添付の「検収書」一四通、「請求書」一通、「今口鉄工所支払状況明細」と題する書面一通、「八尾軽金属工業」と題する書面一通の各写を含む)

一、小代章各作成の確認書二通

一、幸福相互銀行平野支店、住友銀行南森町支店(二通)、住友銀行千林支店各作成の各回答書

一、浅田武、久保浩一郎各作成の各上申書

一、国税査察官作成の昭和四六年七月八日付、同月九日付、同年八月三一日付各調査報告書(但し、第二回公判調書中の別紙検察官請求証拠目録請求番号1以下単に請求番号という-24、32、36の分)

一、収税官吏作成の調査元帳ならびに銀行調査元帳および別所分銀行調査元帳(請求番号33、48、48の1の分)

一、押収にかかる決算関係書類、架空取引資料各一綴、材料仕入帳(44、1~12)、同(45、1~12)各一冊、買掛金補助元帳(42、上期~45、下期)四冊、売上帳(42~45年分)一冊(当裁判所昭和四八年押第四三号符号1、2、4、5、22、27)

一、第八回公判調書中の証人田中精之の供述部分

判示第一の事実につき

一、被告人の収税官吏に対する昭和四六年四月二六日付、同年五月一八日付、同年六月三〇日付、同年七月一九日付(但し「問一、前回に引続いて質問します。本年六月三〇日の」より始まる分)、同年九月七日付、同月八日付各質問てん末書

一、千代田機工(株)代表取締役岡田健一作成の回答書

一、末吉艮三作成の供述書

一、美濃敏子作成の確認書(「四三年分仕入帳」添付)

一、八尾税務署長作成の証明書(但し請求番号75の分)

一、押収にかかる43年分一般管理費請求領収証綴一二綴、43年度買掛帳一冊、43年度手形記入帳、43年度仕入帳(表題は元帳)各一冊(当裁判所昭和四八年押第四三号符号7、14、17、23)

判示第一、第二の各事実につき

一、今口正春の収税官吏に対する質問てん末書

判示第一、第三の各事実につき

一、越智志人作成の供述書

一、四国銀行今治支店作成の昭和四六年六月三〇日付(同支店次長井上哲二作成の確認書添付)回答書ならびに同支店次長井上哲二作成の「調査書類追送について」と題する書面(送金取組依頼書写三葉添付)

一、国税査察官作成の昭和四六年九月三日付調査報告書(請求番号34の分)

判示第二の事実につき

一、松本健作成の昭和四六年七月二〇日付供述書

一、第一銀行東大阪支店長代理広瀬友次郎作成の確認書

一、八尾税務署長作成の証明書(但し請求番号76の分)

一、押収にかかる44年分一般管理費請求、領収、納品証綴六綴、右同(但し44、7~44、12)六綴、借用証書(印鑑証明とも、古江栄治)一通(三枚綴)、44年度仕入帳、44年度手形記入帳各一冊(当裁判所昭和四八年押第四三号符号8、9、11、15、18)

判示第二、第三の各事実につき

一、被告人の収税官吏に対する昭和四六年六月一六日付質問てん末書

一、別所守の収税官吏に対する昭和四六年四月二二日付質問てん末書

一、柴田時雄、高井保の収税官吏に対する各質問てん末書

一、森下茂、佐藤昭二各作成の各供述書

一、大宝産業株式会社代表取締役社長竹中大、天羽健、種村終作、東和工業株式会社栗田信彦各作成の各確認書

一、大商株式会社取締役社長川口実、松浦一太、国江正夫、柴田時雄各作成の各回答書

一、株式会社石川製作所経理部長柴田時雄、同会社会計係長斉田貞男両名作成の上申書

一、押収にかかる44年度売上帳、有給休暇ノート各一冊、振替伝票等四三枚、売掛・買掛補助帳一冊(当裁判所昭和四八年押第四三号符号12、13、20、21、)

判示第三の事実につき

一、被告人の収税官吏に対する昭和四六年七月一九日付質問てん末書(但し「問一前回に引続いて質問します。四六年六月一六日」より始まる分)

一、田中勲の収税官吏に対する質問てん末書

一、松本健(昭和四六年七月一日付)、田中浩太、林清太郎、中保男各作成の各供述書

一、中川勝、東和鉄工所こと山田輝雄(添付の昭和四六年六月三〇日付訂正書とも)、日藤工機株式会社代表取締役藤坂和一、三菱信託銀行証券代行部各作成の各回答書

一、国税査察官作成の昭和四六年八月一三日付調査報告書(請求番号74の分)

一、八尾税務署長作成の証明書(但し請求番号77の分)

一、押収にかかる総勘定元帳(45、1~12)、売上帳(45年)各一冊、45年分一般管理費、納品、請求領収証一二綴、45年度仕入帳、45年度手形記入帳各一冊、45年度請求書、領収書綴、45年度出金伝票各一綴、美濃製作所44、45年分仕入帳二枚(当裁判所昭和四八年押第四三号符号3、6、10、16、19、24、25、26)

(弁護人の主張に対する判断)

第一、いわゆる大丸興業経由の架空取引分について。

弁護人は、被告人が別所商店こと別所守との間で大丸興業を経由してなした架空取引分につき、昭和四四年度において計三一四万円、昭和四五年度において計一六二万円の実取引があつた旨主張し、第七回公判調書中の証人別所守の供述部分のうちに、昭和四四年一月二四日、二五日分合計ドラム一、〇〇〇本、同年五月三〇日分ドラム一、〇〇〇本、同年一〇月二七日分ドラム一、〇〇〇本、同年一一月一八日ないし同月二〇日の三日分計ドラム二、〇〇〇本、同年一二月一一日、同月一五日の二日分計ドラム一、〇〇〇本、昭和四五年二月二三日分ドラム一、〇〇〇本の取引については実取引であつたと思う旨供述して右弁護人の主張に一部副う部分があるけれども、第四回ないし第七回公判調書中の同証人の供述部分を仔細に検討すると、同証言は動揺して首尾一貫せず、又多分に尋問者に迎合的であり更に同証人にとつて被告人は重要な取引先であることなどを併せ考えると、前記弁護人の主張に副う供述部分はたやすく措信し難く、かえつて前掲被告人の検察官に対する昭和四七年一月二八日付、同年二月二日付各供述調書、被告人の収税官吏に対する昭和四六年四月二六日付、同年五月一八日付、同年七月一九日付(但し「問一前回に引続いて質問します。本年六月三〇日」より始まる分)各質問てん末書、前掲第八回公判調書中の証人田中精之の供述部分、同国税査察官作成の調査報告書(請求番号32の分)、同収税官吏作成の調査元帳(請求番号33の分)、美濃敏子作成の確認書、同押収にかかる決算関係書類、架空取引資料各一綴、材料仕入帳(44、1~12)、同(45、1~12)各一冊、売掛、買掛補助帳一冊、買掛金補助元帳(42上期~45下期)(当裁判所昭和四八年押第四三号符号1、2、4、5、21、22)の各証拠を総合すれば、本件架空取引に関する検察官の主張は優にこれを認めるに足りるから、この点に関する弁護人の右主張は理由がなく採用の限りでない。

第二、いわゆる簿外経費について。

弁護人は、被告人はいわゆる簿外経費として昭和四三年度五〇〇万円位、昭和四四年度一、七〇〇万円位、昭和四五年度二、五〇〇万円位の支出をしたと主張するが、これらの支出を認定するに足る明らかな証拠は存在せず、なるほど弁護人主張のように昭和四四年度、昭和四五年度において損益計算法(P/L)との不突合額が相当額に上り、これらの不突合額が事業主貸勘定に計上されているが、本来損益計算法による場合不突合の生ずることはことの性質上避けられないことであり、本件の場合に右不突合額の使途が確明されない以上(本来これが使途は被告人において最もよく知つている筈であり、これを解明することは被告人にとつても有利に働くことになるに拘らず)、右の結果は止むを得ないところといわねばならず、尚又弁護人提出の株式会社梅田画廊作成の証明書によれば、被告人は昭和四三年から昭和四五年にかけ、絵画六点を合計金一、一六五万円で購入した事実は認められるものの、これらの絵画が果して何人に贈与されたのか、その費用が被告人の営業の必要経費として認定し得るものかどうかを証明するに足るなんらの証拠もないから、これらの費用を簿外経費としてたやすく認定し得ないところである。以上の次第で弁護人の右主張は採用できない。

第三、本件犯則所得の計算について。

弁護人は、本件犯則所得の計算について昭和四五年度期首原材料棚卸高犯則額四四二万九〇〇円、期首半製品棚卸高犯則額二九四万七、〇〇〇円を収入の部に計上したのは誤りであると主張し、その理由を縷縷述べているが、本来脱税犯は過少申告をして納期を徒過したときに成立し、その後の修正申告等は犯罪の成否ないしは、ほ脱所得額等に何らの影響を及ぼすものではない。唯ある年度(仮にこれを第二期と称する)中に、前年度(仮にこれを第一期と称する)分について第一期の期末棚卸高に関連のある修正申告がなされたことにともない、第二期分の申告において同年度の期首棚卸高として右修正申告における第一期期末棚卸高に見合う金額を公表に計上した場合は、右期首棚卸高を第二期分のほ脱所得額の計算の基礎とすべきものであることは当然であり、修正申告の有無は右の意味においてほ脱所得額の計算に差異を生じさせるものであることは自明のことである。この場合その計算法としていわゆる直接減算法卸ち第一期における棚卸除外高たる係争犯則金が現に同期の損益計算上即ち犯則取扱い上においては増益とされたのであつたから、第二期においては期首棚卸高に組入れて係争犯則金相当分を減算して損益計算をする方法と、いわゆる加算的減算法即ち当該修正損益計算は同一科目で加算と減算がある場合相殺してその差額を計上せずに、加算額と減算額を両立計上する、即ち第一期末の簿外棚卸高の否認額を全額第二期首簿外棚卸高として認容し、その結果公表へ受け入れ済等の理由により過大認容となる金額を「収入の部」において益金として否認する方法とがあり、前者によれば第一期末の簿外棚卸高が第二期において公表へ受け入れしたこと及び税務署の調査経過が不明となる等の理由から国税査察においては後者の計算方法がとられているのである。このことは証人田中精之の当公判廷における供述ならびに同人作成の説明書によつて認められるし、更に右供述ならびに説明書によれば本件以外の他の犯則事件もすべて後者の方法によつて処理されており、本件にのみ特別の計算方法ではないことも明らかである。従つて後者の方法によつても第二期において係争犯則金全額が犯則計算上実質的に減算項目として考慮され、これを減算したうえ判示犯則額が計上されたものというべきであるから、この点に関し更に控除すべき余地は存しないことになり、弁護人のこの点に関する主張は独自の見解に立つものであつてもとより採用できないところである。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に各該当するが、情状により懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上の罪は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条により最も犯情の重い判示第二の罪の懲役刑に法定の加重をした所定刑期の範囲内、および同法四八条二項により所定罰金額を合算した所定金額の範囲内で、被告人を懲役一年および罰金四、〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、諸般の情状に鑑み同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、なお訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文を適用してこれを全部被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

昭和四九年九月三〇日

(裁判官 橋本達彦)

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